(2016年 真宗教団連合「法語カレンダー」4月のことば)
今月の言葉は「正信偈」の「顕示難行陸路苦 信楽易行水道楽(けんじなんぎょうろくろく しんぎょういぎょうしいじょうらく)」を意訳したものです。
この正信偈の御文の読み下しは、「難行(なんぎょう)の陸路(ろくろ)、苦しきことを顕示(けんじ)して、易行(いぎょう)の水道(すいどう)、楽しきことを信楽(しんぎょう)せしむ」【『浄土真宗聖典(註釈版)』より】です。
現代語版には《龍樹菩薩(りゅうじゅぼさつ)は、難行道は苦しい陸路のようであると示し、易行道は楽しい船旅のようであるとお勧めになる》と示されています。
龍樹さまについては、『浄土真宗辞典』(本願寺出版社刊)に次のように記されています。
龍樹(150〜250頃)梵語ナーガールジュナ(Nagarjuna)の意訳。…
南インドの生まれ。空の思想を大成して大乗仏教の教学の基礎を確立した。
中観(ちゅうがん)学派の祖。インドはもとより中国・チベットにおいても大きな影響を
与え、その思想は広く諸宗の基盤となっていることから、日本では古来より、八宗の祖師
と称されている。また、『十住毘婆沙論(じゅうじゅうびばしゃろん)』の「易行品(いぎょう ぼん)」を著わしたことで浄土教の祖とされる。……
と、示されてあります。
この龍樹さまが易行品の中にお示しくださってあることから、親鸞さまがお示しくださったのが、先の正信偈の御文です。さらに、親鸞さまはご和讃に
龍樹大士(りゅうじゅだいじ)世にいでて
難行・易行のみちをしへ
流転輪廻(るてんりんね)のわれらをば
弘誓(ぐぜい)のふねにのせたまふ
《龍樹菩薩が、仏の悟りを開くための修行の道として難行と易行があることを教えられた。 阿弥陀仏は、煩悩の世界を常にめぐっている私たちのことを悟りへと渡す船に乗せてくだ さっています》(筆者訳)という意味と受け取らせて頂きます。
親鸞さまは、龍樹菩薩さまの教えを、上のように和讃されて、阿弥陀さまが私たち一人ひとりのことを救いの船に乗せて、必ずお浄土に生まれさせるという「はたらき」をされていることをお教えくださいます。
自分の力で仏の悟りを得るために修行をするということは、並大抵のことではなく、まさに難行であり、その思いが達成されるという保証はどこにもありません。
何時どうなってしまうかわからない、不安定な何の保証もない命をかかえて生きている私たちです。そんな私であるからこそ、阿弥陀仏はご自身のはたらきで、凡夫の私に仏の悟りを開かせようとはたらいておられるのです。それが船に譬えられています。
そんな阿弥陀さまのはたらきの中にいる私たちです。ともに阿弥陀さまのお浄土往きの船に乗せて頂いているのだと思います。
阿弥陀さまのはたらきを喜ばせていただきたいものです。
南無阿弥陀仏