(2018年 真宗教団連合「法語カレンダー4月のことば)
今月の法語は親鸞聖人の著わされた『唯信鈔文意(ゆいしんしょうもんい)』の中の一文です。
この書物は、法然聖人のお弟子で、親鸞さまの先輩である聖覚法印(せいかくほういん)さまが著わされた『唯信鈔(ゆいしんしょう)』を註釈されたものです。
安居院流(あぐいりゅう)という天台宗の一流派があります。その流派の祖である澄憲(ちょうけん)さまの子が聖覚さまです。安居院流は唱導(しょうどう)をお家芸としていたと言われ、澄憲さま聖覚さまは説教の名手として有名であったそうです。
唱導と申しますのは、仏の教えを説き明かして人びとの心をその教えに引き込もうとする布教の形です。平安時代末期に、安居院流と呼ばれた唱導が大いに行われたということです。
聖覚さまは「安居院法印聖覚(あぐいほういんせいかく)」と呼ばれた方ですが、法然聖人のお弟子となられ、お念仏ひとつで救われる教えを人々に伝えていかれたのです。『唯信鈔』という書物は、その表題に表わされますように、ただ信心を念仏の要とすることが説かれています。その唯信鈔を註釈されたのが『唯信鈔文意』です。
さて今月の言葉について、少し前の文から引かせて頂きます。
「但使回心多念仏(たんしえしんたねんぶつ)」というは、「但使回心」はひとえに回心せしめよということばなり。「回心」というは自力の心をひるがえし、すつるをいうなり。実報土(じっぽうど)に生まるるひとはかならず金剛の信心のおこるを、「多念仏」と申すなり。
《「但使回心多念仏」というのは、「但使回心」とは、ひとえに回心しなさいという言葉である。「回心」というのは、自力の心をあらため、捨てることをいうのである。真実の浄土に生まれる人には、決して壊れることのない他力の信心が必ずおこるのであり、このことを「多念仏」というのである。(「唯信鈔文意」現代語版)》(下線部が4月の言葉)
今月の法語は、阿弥陀さまのおはたらきにまかせることで必ずお浄土に生まれて往くことができると説かれている言葉と申し上げていいかと思います。
「但使回心多念仏」という文は、中国の唐の時代の僧で法照(ほっしょう)さまという方が著わされた「五会法事讃(ごえほうじさん)」という書物の中の一文です。この書には、念仏(南無阿弥陀仏)を五種の曲調に合わせて修する五会念仏(ごえねんぶつ)の作法が述べられ39種の讃文(さんもん)が示されています。
「但使回心多念仏」という文は、その讃文です。
その中「回心(えしん)」ということについての親鸞さまのお示しが今月の法語です。
「回心」ということについて、『浄土真宗辞典』(本願寺刊)では、
@悪心を改めて仏の教えに帰すること。
A自力の心を捨てて本願他力に帰すること。
と示されてあります。
今月の言葉は、Aの意味になりますが、阿弥陀如来の本願は、私に対して「念仏のはたらきで、必ず極楽浄土に生まれさせ阿弥陀と同等の悟りを開かせる。ですから、すべてを阿弥陀にまかせなさい」というものです。
自力の心とは、その如来さまのはたらきを疑うことです。その疑いの心を捨てる、つまり、阿弥陀さまのはたらきを素直に聞かせていただくことが大切なのです。
みなさまお念仏のみ教えを繰り返し聞かせていただきましょう。
南無阿弥陀仏